東京地方裁判所 昭和24年(ワ)2847号 判決
原告 日本国有鉄道
被告 国鉄労働組合
右代表者 中央執行委員長
一、主 文
被告は原告に対し金二千万円にこれに対する昭和二十四年七月二十六日以降完済までの年五分の金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は主文同旨の判決並に仮執行の宣言を求める旨申立て、その請求の原因として、原告は昭和二十四年六月一日、日本国有鉄道法によつて設立せられ、従来国が国有鉄道事業特別会計をもつて経営していた鉄道事業その他一切の事業の経営を目的とする公法上の法人であり、被告は原告の職員中一定の欠格者以外の者を以て組織されており、昭和二十二年五月二十七日その設立登記を経た社団法人であつて、公共企業体労働関係法の施行に伴い、同法の適用を受ける労働組合として存続するものであるが、その組合規約に基き、被告はその意思機関として、大会、中央委員会を、又執行機関として中央執行委員会を持ち、なお、争議に関する執行機関として中央闘争委員会を設けており、中央執行委員長は組合を代表し且中央闘争委員長を兼ね、組合活動一切について組合員を統制指揮する権限があり、その他組合内部組織としては本部の下に順次細分された支部、分会、班の下部組織があるが、全部一体として単一労働組合を結成しているものである。ところで原告は昭和二十四年六月、同年一月一日改正実施を見た官庁執務時間実働(一週間)四十八時間制に従い、列車(電車)乘務員の勤務に関する新交番順序表を作成しこの表による勤務時間制を実施することを決定し、その就業命令を関係職員に通達したが元来この交替順序表とゆうものは、列車乘務員(汽車、電車の車掌等)が日常汽車、電車に乘込み執務するための各員の分担、交番順序を定め、その一週間分又は一月分を一つの表としたものであつて労働条件として定められている勤務時間の範囲内で各員の分担を能率的、合理的に決定し、事業の運営能率の向上に資するものであるから、業務の管理運営の任に当るものが必然的になさねばならぬ措置であり、従つて国有鉄道職員服務規程第三十二条にも「上長ハ所属員ノ勤務ヲ按配シ適当ニ事務又ハ作業ノ分担ヲ定メ所属員ノ負担ヲ成ルべク公平均等ナラシムル様努ムべシ」と規定し又鉄道局長事務処理規程第二条にも右の勤務指定について、列車乘務員の交番順序の決定、指令の権限は鉄道局長にあることを明にしている。のみならず従来の慣行から言つても、列車時刻改正、新線開業等によつて必要を生じた都度原告において交番順序表を組替実施して来たのであつて、被告組合が創立されてからもこのような事例は幾度となくあつたのであるが、原告がこれを一方的に定めることについて一度も異議が誰からも出たことはない。本件交番順序表の決定実施も亦、前示官庁執務時間制に従い、原告において勤務時間の改正をしなければならなくなつたので、昭和二十四年一月二十二日から部内の一般職員については改正勤務時間を実施して来たのであるが、列車乘務員については、列車の時刻改正等適当の時期にこれを実施するために、その実施を便宜上延期していたところ従来訴外日本通運株式会社に原告から委託していた小口貨物積卸業務を原告の直営に改め、昭和二十四年六月から右直営を実施することとなつたので、これを機会として全国的に列車乘務員交替順序の改正をしたに過ぎず、これによつて被告組合員の労働条件に関し、時間その他の点について何等負担が加重されたものではない。ところが前述の就業命令の通達を受けた被告組合の組合員中、東神奈川、蒲田、千葉、中野の各車掌区並に三鷹、中野の各電車区勤務の組合員は新交番順序表による乘務を拒否し、東神奈川、千葉両車掌区においては、他の友誼労働組合の応援を得て暴行、脅迫によつて乘務員の乘務を妨害するものもあり、原告の業務の正常な運営は阻害されるに至つたので、原告は昭和二十四年六月九日右乘務拒否の首謀者と認められる十九名を日本国有鉄道法第三十一条第一項及び公共企業体労働関係法第十七条第一項、第十八条により懲戒処分として免職したところ、東神奈川車掌区勤務の被告組合の組合員は右免職処分をきつかけとして同日直ちに、同盟罷業を決行し、次いで蒲田、中野の両車掌区並に中野、三鷹両電車区勤務の組合員もこれに同調し、合計約二千名の被告組合の組合員は翌十日から同盟罷業を行い、このため原告の経営する京浜、東北、中央、鶴見、横浜及び総武の各線は何れも全部又は一部の列車の運行を停止せられ、同月十一日日本占領軍総司令部からの罷業中止命令によつて、ようやく罷業の中止を見たが右六月九日から十一日迄の三日間の罷業によつて、汽車について十七万八千人、電車について百十二万五千人計百三十万三千人分の旅客運賃金三千五十七万円の収入減少による損害を原告において受けたものである。ところで右同盟罷業は公共企業体労働関係法第十七条第一項の規定に違反する違法の行為であるから、これによつて原告の受けた損害については、原告において賠償を求める権利があるのであるが、本件同盟罷業は前述の通り東神奈川、蒲田、中野の各車掌区、並に中野、三鷹の各電車区勤務の被告組合の組合員により行われたものであり、これ等の組合員は、何れも被告組合の下部組織である新橋支部所属の東神奈川、蒲田の各車掌区を単位とする各分会又は、八王子支部所属の中野車掌区並に中野、三鷹の各電車区を単位とする各分会の構成員である。そして元来被告組合においては、昭和二十四年二月二十八日第十二囘中央委員会を開催(開催地は伊豆の伊東であつた)したが、その開催の主な目的は、当時国有鉄道経営主体の国から公共企業体への移行並に所謂経済九原則に基く行政整理が予想されたので、組合としてこれに対処すべき方策を決定するにあつたのであり、右委員会における方策決定の要旨は行政整理反対とゆう目標達成の手段として随時、随所に自在の機動性を以て行うことを特質とする反射闘争により、整理に対抗しようとゆうのであるが、その所謂反射闘争のねらいは闘争形態の単純性を排して複雑性を具有させ、企業主をして奔命に疲れさせようとゆうのであり、具体的方法としては被告組合の内部に包蔵される数千の分会を構成する各末端の職場をして一定の枠内で各種各様の形態による闘争をコーラス(合唱)のように波状的若しくは蜂起的に行わせて、その闘争を内部組織の上下左右に反射し合い、波及し合う活動をその各分会に対して予め包括的に許容するものであつて争議に関する本部の統制を上敍の意味で撤去したものである。(尤も、この外反射闘争とゆうのは、企業主が強硬なればなる程、それに対応して組合も強硬な態度をとることも意味する。)であるから行政整理反対の目標達成のために被告組合の下部組織である分会の二、三において右の趣旨に基く闘争として同盟罷業に出たときは前示反射闘争の性質からしても、それに直ちに被告組合自体の意思を具現するに外ならないものであるが、本件罷業に際つては、被告組合は新交番順序表の決定実施を目して原告が行う行政整理のための「調査」「試験」であるとし、これに抗争する手段として昭和二十四年五月頃被告組合の代表者である中央闘争委員長より各支部に対し同盟罷業をなすべき旨の指令を発し、右指令に基いて本件罷業が行われたのであるから右同盟罷業によつて生じた結果については民法第四十四条第一項により被告組合においてもその責を負うべきものである。仮りに右の指令がなかつたとしても、本件同盟罷業は新交番順序表の決定、実施を以て行政整理の前提又は一環的所為とし、右行政整理に反対する意図の下に前示被告組合の第十二囘中央委員会決定の趣旨を体し、組合本部から予て許容されていた反射闘争の方式に従つてなされたものであり、しかも右同盟罷業の行われることは被告組合の代表者において事前に予知していたものであるから、その罷業を防止するに適当な措置を講じない限り被告組合はその罷業による責任を免れないものであるところ、被告組合代表者は何等前示の措置をとらなかつたのであるから被告組合は本件同盟罷業により生じた結果について、その責を免れないものである。従つて上敍違法な同盟罷業によつて原告の受けた前示損害はすべて被告組合において賠償すべき義務があるので、原告は被告に対し旅客運賃収入減による損害の内金二千万円とこれに対する損害発生の日の後である昭和二十四年七月二十六日以降完済までの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求めるものであると述べた。(立証省略)
本件口頭弁論期日は昭和二十四年九月五日以降十数囘に亘り開かれ、その前半においては被告代表者は期日に出頭したが何等の陳述をなさず、その後半においては適法な呼出を受けたが口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出せず当裁判所が昭和二十六年十一月十九日被告代表者に不出頭のまま、口頭弁論を終結し判決言渡期日を同年三月二日と指定告知したところ同年二月二十八日に至り被告訴訟代理委任状と共に右委任状により代理を委任された訴訟代理人の手によりて口頭弁論の再開を求め上申書並に答弁書を始めて提出して来たのである。
三、理 由
本件口頭弁論期日は十数囘に亘り開かれたのに、事実摘示に記載したように、その後半に至つては被告は出頭しなくなつたので、裁判所としては被告の陳述を聴かずに裁判することは不本意であつたが、被告の期日の懈怠を是認してその訴訟をこのまま遅延させることはできないので審理を閉じたところ、被告訴訟代理人から口頭弁論再開の申請があつたが、右申請の理由とするところによると、前半出頭しながら何等訴訟上の陳述をしなかつたのは、当時の裁判長から和解をすすめられたので爾来年余にわたり原告との和解交渉に専念していたためであるというのであるが、後半の数囘にわたる不出頭については、訴訟の不馴れ、被告代表者の交代、被告組合の重大案件の山積等によるものであると言つているけれども、右のような事情が、仮にあつたにせよ、元来民事訴訟法は当事者自身の責任において行われなければならないもので、裁判所まかせにして置くべきものではないし、(この点は被告ばかりでなく、一般国民の自覚が足らないようであるが)殊に本件訴訟の如きは被告にとつて必ずしも軽少な事項でもないであろうに、一片の届出もしないで期日を懈怠した理由としては前示の事情はやむを得ないものとは解し難いので裁判所は判決言渡を延期し、他に期日懈怠を相当とする事由の開陳を期待したのであるが、その後提出された弁論再開申請理由を記載した上申書によるも納得できる事由はないので前示再開申請は理由のないものとして茲に却下する。
よつて本件口頭弁論終結当時における状態において判断すれば原告主張事実は被告において明に争わないので、民事訴訟法第百四十条によりすべて自白したものと看做される。右事実によれば被告組合代表者の指令に基き行われた原告主張の同盟罷業が公共企業体労働関係法第十七条第一項に違反する違法の争議行為であることは明であり、しかも右違反の効果は単に違反行為をした職員に対して同法第十八条の適用を見ることだけに限定されるものと解すべき根拠はない。労働組合法第八条には正当な争議行為によつて生じた損害については労働組合において賠償の責がないことを規定しているが、この規定の根拠をどのように解釈するにしても、右の違法な争議行為について民法第七百九条に言う権利の侵害を意味する違法性がないとは言えない。公共企業体労働関係法第十七条第一項で業務の正常な運営を阻害する一切の争議行為を禁止したのは同法第一条第一項によつても明白なように公共企業体の正常な運営を最大限に確保して、公共の福祉を増進擁護するためであり、従つて禁止の直接の目的は公法的理由に基くものではあるけれども、国家の経済と国民の福祉に対する公共企業体の重要性にかんがみ、公共企業体の私法上の営業権その他雇傭契約上の使用者としての権利を前示争議行為の禁止により保護することによつて、上敍の目的を達しようとしたものであることは疑がないので、右の禁止規定に違反して争議行為を行うことは公共企業体が経済的主体として有する私法上の権利を侵害するものと言わざるを得ない。従つて右権利の侵害者においてその権利侵害に因り、被侵害者の受けた損害を賠償すべき義務あることも明である。ところで本件について権利侵害の責任の帰属を考えると、原告が本訴請求の第一の理由とするところは、本件同盟罷業が被告組合の代表者の指令によつて行われたことであるが、右罷業による権利侵害の責任は、その罷業が被告組合の代表者の指令に基くものである限り、単に罷業に参加した組合員のみに生ずるものではなく、労働組合法第十二条により準用される民法第四十四条第一項の規定により、被告組合自身においても、その責任を辞することはできないものと言わなければならない。よつて被告組合に対し本件同盟罷業によつて原告に生じた損害の内金二千万円とこれに対する損害発生の日以後完済までの民法所定の年五分の損害金の支払を求める原告の本訴請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、仮執行の宣言は本件においてはその必要が認められないので、その申立を不当なものとして却下し、主文の通り判決する。
(裁判官 毛利野富治郎 恒次重義 井口牧郎)